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Explorer's Voice 〜先人の知恵〜
Vol.01
株式会社バーテック
末松 大幸 さん
2
自分がいなくなったら、
会社は食い物にされる?
2.自分がいなくなったら、会社は食い物にされる?
末松さんご自身も、かつて父の事業を後継されました。
その時の事情について教えてください。
18才のとき、先代社長だった父・冨三郎を失いました。半年ほど闘病して亡くなったのですが、当時私は高校を卒業した大学受験浪人で、経営知識は全くのゼロ。
得意先は同情してくれましたけど、せいぜい1年です。もう周囲からぼろぼろに叩かれる。父親がつかんだなけなしの顧客も価格競争で次々に取られて、ずっと負け戦でした。
すると「手伝ってあげよう」「自分にまかせなさい」と寄ってくる人が山ほど出てくるんです。そんな誘いに乗らずにすんだのは、優秀な女性の番頭さんが助けてくれたからです。
でもじり貧なのは変わりません。どうしたらと悩みに悩み、大学で最先端のマーケティングを学ぼうと決めました。
会社を経営しながら
大学で勉強しようと決意されたわけですか!
もちろん大学に通う時間はありません。入学したのは慶應義塾大学経済学部の通信教育課程です。「これで何もつかめなければ、全てを失う」と覚悟して番頭さんに許しをもらいました。
元々受験浪人だったのも、慶応以外に行かないと決めていたからでした。実家の近所に緒方洪庵の適塾があって、小学生時代、先生が見学に連れて行ってくれた。その時の話が面白くて、塾生の一人だった福沢諭吉のことも好きでした。だから慶応に行きたいと。
ただ週6日は出張で飛び回る毎日でしたから、勉強は主に旅館。あとスクーリングといって、決まった日は本学へ通わないといけない。その間は番頭さんに会社を守ってもらいました。

ただ勉強自体はめちゃくちゃ面白かったですね。
普通の大学生は経営学、統計学、行動学といったものを、具体的にどう役立つのか分からずに勉強すると思いますが、私は実際の現場とつき合わせながら学ぶわけです。「これは応用できる」と思ったら、すぐに実践しました。
安売り勝負から抜け出して自社ブランドを確立する、顧客の現場に入って困りごとを解決するソリューションビジネスを目指す、ファブレス経営で研究開発に専念する、などと学んだ理論を自分の手で形にしていきました。まさに「知行合一」。ざるを使って水をすくうのではなく、穴のない器でしっかり、がめつく水を集める気持ちですよ。
そんな経験があったので、以後の経営、そして事業承継でも「問題が起きてから考えるのでは遅い。問題が起きる前に動く」という意識が骨身にしみたと思います。

ファミリー企業は特に「自分がいなくなったら会社が弱くなって、周囲の食い物にされるんじゃないか」という恐怖があると思うんですよ。でも私は、だからこそ早く後継者を決めて社長職を譲らねばと考えていました。たくさん経験を積んで、社会の変化に柔軟に対応するには、経営者は若い方がいい。
会社経営は、予想不可能なことがいつ起きても不思議じゃない感覚が必要だと思うんです。現在のコロナ禍だって、2019年末まで誰も予想しなかったでしょう。
くわえて私の場合は「父と同じように早死にするかもしれない」という覚悟もありました。
2007年、まだ58才でバリバリ働ける時期に
27才のご長男・仁彦氏へ社長職を譲られます。
このタイミングを振り返って、どうお感じになられますか。
もっと早くても良かったですね。卵の殻を想像してください。
ちゃんと育ったら卵は勝手に割れるのに、親が外からトンカチで割ってしまったら「あれっ、育ってない」と愕然としますよ。親がやるべきは殻を割ってあげることじゃなくて、子供が自力で割る力を与えること。
親離れ、子離れは早ければ早いほど、子供はたくさん力を蓄えます。やっぱり役職が人を育てますよ。ずっとNo.2を任せたとしても、トップとNo.2では飛んでくる矢が全く違いますから。

そもそもファミリー企業の経営者は、自分の子供が生まれた瞬間から「このまま家業として続くとしたら、どう育てるべきか」と、たとえ口にしなくても間違いなく考えているはずです。
ところが同時にファミリー企業の経営者というものは、事業が上手くいっていれば、周囲からのアドバイスが耳に入らなくなりがち。経営は決断の連続ですから、それを乗り切ってきた自分に自信があるし、養っている家族や社員への責任も感じています。
でも自分がずっと会社に居座っていたら、「このままでは老害になる」という自覚もあるはずなんです。「わかっちゃいるけどやめられない」をどうするか。
自分は子孫の抵抗勢力になるのか、それとも成長の礎になるのか。どちらを生きるのかが問われるんだと思います。

ただ早くに承継するのは勇気がいります。社長を退任してからは、株式を持ってはいますが経営に口出ししませんでした。「ウソつけ、口出すやないか」と思われることもあったかもしれませんけど(笑)、自分の気持ちは「好きなようにしなさい」です。
ただ現実的に考えれば、子供に譲った結果、会社がつぶれる覚悟も必要。となると社長の退職金はある程度の金額が必要でしょうね。
ご自身は10年経った2018年で会長も退任されました。
予告されていたんですか?
私自身、新旧社長が併走する期間があればあんなに苦労しなかった、と思ってきたので「余力のある内に引き継ぐ。しばらく残るけど居座りはしない」と決めていました。ですから会長就任時から「だいたい10年でやめよう」と。
やはりどんなに固く決意していても「自分ならこうする」と言いたくなるんですよ。父親としても言いたいし、経営の先輩としても言いたい。
なので「ひとつ提案があるんやけど……」となんとか一線を引く工夫をしてみたり、妻に相談してみたりね。男にとって妻は最大のコーチじゃないですかね。夫婦助け合いとは言いますけど、私は助けてもらう方が多いです。
若い社長に譲ったことで、
外野から非難はありましたか?
もちろんありました。経営者の集まりで「こんな若い奴を連れてくるな。一緒にされたくない」とかね。でも1〜2年も経てば「よくやっておられる。正しい判断でしたね」と言われるようになりました。
息子がめげない気性でもあったんでしょうが、会議で「そもそもこれは何の目的があるんですか」などと平気で口にする奴なんです。良い意味で空気を読まない。
でも惰性に流されない、周囲に忖度しないのって、まさに「若さ」の特権ですよ。これで新しいことができると思いました。2014年から彼が「働き方改革」に取り組んで、2018年からずっと連続でベストカンパニーに選ばれているのも、彼なりの社長像を見出しているからだと思います。
自分は早くに会社を去るとしても、
一緒に歩んできたスタッフも
同じように年齢を重ねているわけですが、
そこはどう考えますか?
トップが70代なら、支える幹部も似た年齢ですよね。権力を温存するのにスタッフを残すのは常套手段ですけど、若い後継者が出てきたら自然と会社を率いる中心世代も若返ります。世間への対応力を考えると若さを活かす方がいい。トップの年齢の影響は大きいと思いますよ。
顧問弁護士や税理士も、たとえば会長と社長で別にする方がいい。社長が40代なら税理士も同年代の方が、気心が知れてコミュニケーションが取りやすいし、時代に沿ったサービスも判ってらっしゃるでしょう。専門職の皆さんは、いわば社長の応援団。話が通じるプロがいるのは心強いですよ。
商売を継がせるという意味で、
やはり「お金の教育」が大切だと思います。
その点で気を付けたことはありますか?
子供って、親の鏡だと思います。親の言うことなんて聞かないように見えて、小さい頃からの接し方ひとつひとつが影響して、やっぱり育てた通りに育つ。24時間一緒にいる師匠と弟子のようなものです。
そしてまともに会社を経営したなら、ある程度の財産があるのも事実。するとお金の教育は本当に大切です。世間の「お金の勉強」は「増やし方」ばかり。でも商売で本当に私たちが子供に教えたいのは「使い方」ですよね。

だったら、たとえば家族旅行に行くなら子供と一緒に計画を立てる。決まった予算の中で「どう使うのが一番良いか」とみんなで考えて、実践的に教える。
あとは日々の仕事を、何らかの形で手伝ってもらうとか。私は小学生時代から、荷造りや配達をしていました。
「今日中に入金せんと資金ショートする。でも時間がないんや」と親父に言われて、札束入りのふろしきを体に巻き付けて電車で銀行に行ったこともありましたよ。まだ小2ですよ(笑)。

でもそういう経験があったから、商売にどれだけの人々が関わって、どれだけ支えてもらっているかは体で理解していたと思います。私自身は息子に、高校生の頃から営業先に同行してもらっていました。後で聞いたら「営業部長と一緒に出張させてもらった時、後を継ぐ覚悟を決めた」そうです。

また大事なのはよく話すことですよね。その時「教えてやろう」と思わず、逆に子供に「教えてくれ」と頼むんです。子供が何を学んでいるのかを引き出すのが、成功の秘訣かと最近思いますね。ファミリー企業の事業承継は子育てが勝負です。
なんて言ってますけど、反省点はいっぱいありますよ。娘からは「上から物を言うな」「話の腰を折るな」「ねちねち言うな」と3つの改善を言われたこともあります(笑)。
今現在の会社との関わり方はいかがですか?
ウチは月3回の「ファミリー会議」を決めていて、お互いに報告しあうんです。その時に事業の相談を受けることもあります。ただ、会社はもう息子が採用した社員が9割以上を占めていて、自分の知る時代とは別物です。
会社というものは、社員の新陳代謝が進まないと、数年に一度業界に起こる「新しい用途開発の機会」を上手くキャッチできないと思います。そのチャンスを掴んで新市場に切り込めたら会社は生存できる。
親が知らなかった場所に青空が広がっていて、そこを自分の思い通りにするなんて後継ぎとしては一番面白いんじゃないですか。

バーテックがいるブラシ業界では、規格品と特注品、どちらで勝負するかが一つの肝です。規格品は常に在庫リスクがある。特注品はそのリスクがなく利益も出しやすいですけどクレーム処理が増える。私はクレームを避けたくて規格品商売に舵を切りました。
ところが今になって、若手から「特注品をやりたい」との声があると。上手く行けばいいですけど、自分と同じ失敗をする可能性もある。ですが、グッとこらえて「まあ失敗したとしても勉強や」と。
どこまでリスクを取るかは、社長である息子の仕事。経営者は失敗を繰り返して一人前になるものです。親がやるべきは、反対じゃなくて鼓舞ですよ。

それに短期的には失敗に見えても、長期的に考えたら「あの時会社は生まれ変わった。あの機会がなければ今頃どうなっていたか」なんてこともありうる。事業承継は徒競走ではなく駅伝みたいなもの。長い目で見ないと。
なかなか自分の子供を誉めるのは憚られますけど、今のところ点数を与えるとしたら100点満点で200点です。よくやってくれています。
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